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その時の茜の真っ青な顔を思いだして、私は思わず吹き出した。
茜は何かを言いたそうにして、けれど迷っている感じで私を呼びかけてから後の言葉が続かなくなっていた。
私の思いだし笑いする姿を目の当たりにして、ようやく言葉を発した。
「何笑ってんスか」
「貴様の先程の顔面蒼白の顔を思い出して、可笑しくてつい笑ってしまった」
「別に俺は面白くもなんともないですから。向こうの課長もうちの課長も、明日から松山出張だって言うんなら最初から言っておいてくれれば良いものを。それならこっちだって最初から準備して来たし、無駄な往復することもなかったっていうのに……」
「じゃあ何か?貴様……この私に、帰りは交通機関を使って帰ったら良かったとでも言うつもりか?」
「いや、まぁその……うん、まぁそうっスね」
信号待ちだったので安全面では何の問題もないということで、私は本日3度目の手刀を茜の頭上に振り落としてやった。
渾身の力を込めて。
「痛っ。本当にアンタ凶暴な人だな。この鬼っ、悪魔っ」
「騒ぐな。お前が常に悪いから罰してやっているだけだ」
私は茜の言う言葉をいつも通りにスルーして言い返した。
いつも通りの、他愛ない言い合い。
なのに次の瞬間、茜の顔を何気なく見つめた時、茜の顔は明らかにしまったという顔をしていた。
茜、別にそんな顔をしなくても良い。
本当のことだから。
私には半分鬼の血が流れていて、私を守る為にあの人は犠牲になった。
だから、私は悪魔だと言われても仕方がないんだ。
「鬼頭さん……すみません。言い過ぎました」
「貴様に哀れんでもらういわれはない」
それから高知市役所に着くまでの間、私達は一言も喋らずに車中過ごした。
高知市役所に帰り着いた頃には、すっかり外は真っ暗になっていた。
車から降りようと扉に手をかけた時だった。
「俺、強くなりますから」
突然紡がれた茜の言葉に、私は思わず振り返った。
駐車場の外灯の明かりのお陰で、車内は暗かったけれど、茜の表情は見ることが出来た。
その表情はいつになく真剣な表情で、今までこんなに真剣な顔の茜を見たことがなかった。
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