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11 シム その10
11 シム その10
だが、翌日になっても河の水かさは減らなかった。
「二日で水が引くと言ったではないか!」
詰め寄られて、渡し守は困ったように肩をすくめる。
「いつもなら引くんですが、今年はやけに気温が高くて、上流の雨が多いんでさぁ。
三十年もこの河を見てるが、こんな秋は初めてなんで」
予定の狂った商人たち、道中の食料の不足に悩む旅人たち。
怒りっぽい人々のもめ事を何件も治めて、雑貨屋に戻った老人はほっ、と息をついた。
店の奥の戸を開けて、のぞき込む。
「けが人の具合はどうだ?」
「まあ、順調だね」
おかみが答えて立ち上がる。
「ただ、チビさんの一人が熱っぽくって」
床に敷かれた藁布団の上で、腕を吊った少年が起き上がろうとした。
枕元に三人の子供が神妙に座り込んでいる。
「俺たちを・・・どうする気だ、爺い」
痛みをこらえて、老人に問いかける。
「役立たずの奴隷を四人もかかえて。
一人ずつ売り飛ばそうってか?」
「馬鹿にするな、子供の三人や四人喰わせていくだけの甲斐性はあるわい」
ぎろり、とにらまれて、少年は怯んだ。
「ひと月もあればその腕も治るそうじゃ。
わしの農場でびしばしこき使ってやるから覚悟しておけ。
成り行きで買ったが奴隷は好かん。年季奉公人として働いてもらうぞ」
「年季奉公人?」
奴隷は主人の持ち物だが、奉公人なら年季があければ自由になれる。
「俺たち全員をか?離れないで済むのか?
俺・・・俺は印持ちだぜ?」
それがどうした、と老人がまたにらむ。
「一緒にいられるの!」と子供たちが少年に飛びついた。
傷に響いて顔をしかめた少年は、子供の一人の額に手を当てる。
「パル、ひどい熱じゃないか」
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