12 シム その11

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 それを聞いたおかみは泣き崩れてしまった。 「何てこと!可哀相に、可哀相に!  薬も手当を知ってる者もなくて!  この病は見分けるのが難しいんだ。  熱と発疹で、灼熱病と勘違いする人が多いんだよ!」 「灼熱病・・・」  老人は顔色を変えた。  隔離が義務付けられている、伝染病である。  がたん、と奥の戸が開き、片腕を吊ったシムが現れた。 「薬、ください。俺が届ける!」 「何を言うか!」「寝てなきゃだめだよ!」  おかみが奥へ押し戻す。 「無茶するんじゃない!今度こそその腕をなくすよ!」 「でも、ルーが!あの子たちが!」  脂汗を流しながら、シムはうめいた。 「ルーを助けなきゃ!あいつは・・・あいつは・・・」  少年は二人を見上げて必死に言った。 「あいつは言ってたんだ。ある人に、命を懸けて助けてもらったって。  その人のために、絶対に死ぬわけにはいかないって。  でも、それじゃ逃げろって言ったら、あいつは言うんだ。  ちっちゃい子を見捨てて逃げられないって。  その人に恥じるような生き方は出来ないって。  あいつは、死んじゃいけないんだ。  俺、一生あんたの奴隷になるから。なんでもするから。  あの子たちを、ルーを、助けてくれ・・・ください!お願いです!」  老人は唸った。  あの少年の、澄んだ青い目。  たとえ貴族の子だろうと、堂々とこんなふうに言えるものではない。  共にいたわずかの間に、この盗人の少年にこれほどの忠誠心と責任感を植え付けていった、あの子はいったい何だったのだろう。 「わかった。儂が行こう」
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