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第三章 1 落城
1 落城
「くそっ!暑い!」
ラクロア正規軍第七工兵隊班長ゴートはいらついてシャベルを叩きつけた。
「俺たちは工兵なんだ!死体運搬人じゃねぇ!」
ロードリアスの城内は死体の山だった。
攻城から三日、日差しはきつく、すさまじい死臭が立ち込める中、城門を使えるように清める作業は大変だった。
「えい、くそ暑い!水の配給はまだか!」
「水はまだか!」
「水の配給!」
大きな水桶を持ち、薄荷の大束を肩に乗せた子供が兵たちの間を回る。
「やれ、待ちかねたぞ」
「小僧、こっちだ!」
「おお、薄荷か。気が利くな」
工兵たちが群がって薄荷の葉をちぎって口に押し込み、ひしゃくを奪い合って水をむさぼり、さわやかな香気で口中にこびりついた死臭を洗い流す。
「おおい、こっちにもくれ!」
「ぐずぐずするな!」
城門の向こうから待たされて不機嫌な男たちが呼びつける。
子供は水桶の重さにふらふらしながら門をくぐっていった。
「さあ、野郎ども!あと少しで終わる。
気張って働け!」
やっと通れるようになった門を潜って、騎馬の軍人が数人、やって来た。
「責任者は誰か!」
隊長が駆けつけ、敬礼する。
「子供を探している。
十二歳、金髪、男子だ。
子供を見つけたら、迷わず殺して届けろ!
あれも調べて、子供を見つけたら、並べておけ!」
やっとの思いで片付けた、死体の山を指す。
げぇ・・・。
言い捨てて、軍人は城内に戻っていく。
お偉いさんはいいよな、まったく・・・。
「墓掘り人足の次は子殺しかよ」
故郷に五歳と八歳の息子を持つ班長は苦々しげにため息をついた。
ふっ、とさわやかな香りが立ち上る。道端に打ち捨ててあった薄荷の束を踏みつけたのだった。
薄荷の束で顔は見えなかったが、そういえばあのガキも同じ年頃・・・。
ふっ、まさかな。
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