小指への祈り

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 目が覚めて、ああ、また戦いが始まると息を飲んだ。私の一日はいつもこの言葉から始まる。「負けてたまるか」と。  一体貴女は何と戦っているのかとよく聞かれることがある。私はそこまで戦闘態勢がにじみ出ているのだろうか。そうだとしたら、好都合。ふわふわと風にそよぐ花になんて私はなりたくない。綺麗なだけで、何にもならないような。そんなものにはなりたくなかった。どうせなら棘まみれで、硬くて太くて、決して倒れることのないような。大木にはなれないにしても、無骨でもなんでもいいから、自分のこの足で立っていたかった。 まだ日が昇る前には目を覚まし、世界中の情報に手早く目を通す。ありとあらゆる国の新聞を読んで、必要があればスクラップしてチェックを入れる。気になることがあれば本棚から本を取り出して調べていくし、それでも分からなければ懇意の専門家にその場で手紙を書く。  ネグリジェの上からガウンを羽織っただけで、紅茶だってまだ飲んでいない。それでも私は、こうせずにはいられない。頭の中にはたくさんのアイディアがある。その靄みたいなかけらを一つずつ丁寧に拾い上げ、磨き上げ、くっつけていくのだ。その作業が何とも言えずに楽しくて心地が良いのだ。
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