逃避行

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逃避行

それが、赦されない事だというのは分かっていた。少なくとも、彼女以外の誰もが私を厭悪するだろうということは。 何より、実現するはずのないことだった。  所詮は内に秘めるだけの、私の一方的な恋慕に過ぎない。そう、思っていた。  だって、私は路傍に産み落とされた無価値な女で、彼女はこの国の頂に鎮座する特別な存在なのだから。 ――――だからこそ、有り得るはずのなかったこの奇跡を、繋いだこの手を、私は離したくなかった。 「――――はぁ、はぁ」  吐き出す息が白い。ぬかるむ土を踏みつけるたびに泥が跳ね返り、ただでさえ汚い衣服がさらに汚れていく。 「あとどれくらいなのかしら、モヨ」  沛然と降る雨が、彼女の声をかき消さんばかりに私の体を打ちつけ、耳障りな雑音を奏でる。 今日に限って嵐が来るなんて、なんて幸先が悪いのだろう。 何らかの意思が、私と彼女を引き裂こうとしているのではないかと勘ぐってしまう。 「あと少しです!」  内から滲み出す不安に圧し潰されないよう、精一杯大きな声で返事をした。 「そ。じゃあ、もう少し頑張りましょう」     
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