記憶

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大好きな唐揚げを頬張りながら、匠は何か大事なことを忘れているような気がしてならなかった。宿題?それとも、数週間後に迫った中間テストの事だろうか?全然思い出せなくて、何気なく前に座っている育哉を見た。 「あっ!」 弁当を食べる育哉の口元を見て、匠は思わず声を上げてしまった。 「どうした?」 篤司が心配そうに聞いてくれるが、焦るばかりでうまく言葉が出てこない。 「………何でもない……」 「そうか。ならいいけど」 篤司が置いていた箸を取り、再び食べ始めたのを見て、匠は安堵の息を吐いた。 さっきからずっと考えていたこと、それは匠が育哉の腕をつかみ損ねて倒れ込んだ時、一瞬唇が触れた事だ。 ………キスなんだろうか。 匠は頭に浮かんだ考えをすぐに否定した。あれは単に唇が触れただけでキスとは言わない。キスはもっと神聖な物のはずだから。 匠は、自分が導きだした答えに満足して顔を上げた。すると、二人がじっと匠の口元を見ているのに気がついた。 「何?」 「何って、それはこっちの台詞だよ。ずっと唇を触ってるけど、痛いのか?」 篤司に指摘されるまで、匠は自分が唇を触っていた事に気がつかなかった。 キスの事を考えていて、唇を触るなんて恥ずかしすぎる。 「だから……何でもないって!」 匠は篤司に告げると、ふんとそっぽを向いた。
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