記憶

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ランドセルを背負ったまま電車に乗るのはすごく緊張する。 「匠、俺たち警察に連れていかれたりしないよな」 「たぶん大丈夫だよ」 匠は篤司を元気付けようと否定したものの、だんだん心配になってきた。家出か迷子に間違えられて、警察に通報されるんじゃないかと内心ビクビクしていた。 だけど、ランドセルを置いてくるのは不可能だったんだ。一旦家に帰ってからだと、どこに行くのか内緒で出掛けるなんて出来ないから。 窓の外を眺める余裕なんてなく、目的の駅に早く着くことだけを願いながら、2人は路線図をじっと眺めていた。 「ほら次だよ」 匠と篤司は沢山の人と共にホームに降り立った。ボヤボヤしていると人の流れに巻き込まれて違う方向に流されてしまう。匠は篤司としっかりと手を繋いで、目的の改札まで慎重に進んだ。 「ここを出て階段を上がったら、父さんの会社だよ」 「行こう!」 手を繋いだまま、急ぎ足で階段を上ると…… 「あった」 そこには、記憶通りに6階建ての茶色いビルが建っていた。前は母と2人で父を待ち、3人で食事に行った。 ほんの少し前まで当たり前にあった現実が今はもうない。匠は、初めて父親が居なくなった事を実感した。 一緒に暮らしてなくても父さんは僕の父さんに変わりない。 そう言い聞かせながら、篤司と一緒になるべく目立たない場所で父親を待った。 「あ、父さんだ」 「本当だ、おじさんだ」 篤司も一緒に叫んだ。 匠の父親は子供と遊ぶのが好きな人で、篤司も一緒に車で大きな公園に連れていき、サッカーやアスレチックをして日没まで目一杯遊んでくれた。 匠が父に向かって走り出そうとした時、「プッ、プッ」と控えめなクラクションの音がした。
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