記憶

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「あれ、匠起きたんだ。具合はどう?」 コンビニの袋を下げた篤司が匠に近づいて、心配そうに顔を覗き込んだ。そして、匠のおでこに自分のを当てると熱は無さそうだと呟いた。 「大丈夫。心配ばかりかけてごめん」 「本当だよ。あ、斉藤にお礼を言ったのか?倒れたお前をおんぶして、ここまで運んでくれたんだぞ」 「えっ」 匠はびっくりして育哉を見た。まさか1日に2度もおんぶして運ばせていたなんて。 「ごめん。それと、ありがとう」 「いや、いいよ」 返事自体は普通だと思う。けれど、斉藤の態度がさっきまでと違う素っ気ない物に感じて、匠は戸惑っていた。斉藤君、と声をかけようとしたが、育哉と視線が合わず諦める。 怒っちゃったのかな……。 思い当たる事がいくつもありすぎて、匠の心は沈んだ。親切にしたのに嫌な態度を取られたり、八つ当たりしたり、自分だったら許せないような態度を、匠は育哉に対して沢山取ってきた。嫌われて当然だ。 父親の事で関わりたくないと思ってたが、だからといって今日の態度は酷すぎるものだった。 匠が自分の手をぎゅっと握りしめた時、篤司の明るい声が聞こえた。 「そうだ、弁当買ってきたんだ。品揃えがなくてみんな唐揚げ弁当にしたんだけど斉藤は大丈夫?」 「ああ」 篤司はラグの上に置かれた小さなテーブルに唐揚げ弁当とペットボトルのお茶を並べた。 「とりあえず、食べようぜ」 匠が篤司を見ると、励ますようにニカッと笑った。昔からそうだ。篤司は何かを感じ取っても、何も言わずに匠の側に居てくれるんだ。 「いただきます」 3人は黙々と弁当を食べ進めた。
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