記憶

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「はいはい、拗ねないの。さ、帰ろうか。俺がタクシー呼ぶから、匠は早く食べちゃて」 篤司は匠の頭をくしゃっと撫でて微笑んだ。 「斉藤、ありがとうな。俺達これで帰るよ」 「あ、いや。別に何もしてないから」 「そんな事ないよ。な、匠?」 「うん。斉藤君、今日はありがとう。お礼は改めてするから」 篤司は良くできましたという風に匠を見てから、電話を持って立ち上がった。 篤司が部屋から出ていくと、それまであまり話さなかった育哉が匠に言った。 「唇、気になる?」 「………ならないよ」 「そう?俺は気になるよ。あれってキス……」 「違うよ」 匠は慌てて育哉の言葉を遮った。 「あれは単に唇が触れただけだよ。キ、キスなんかじゃないよ」 必死な匠に対して、育哉は妙に冷静だ。 「じゃあさ、キスがどんなのか教えてやるよ」 育哉は折りたたみ式のテーブルを脇にどけると、匠の前に移動した。そして、匠の顎に指をかけて上を向かせると、顔を傾けてゆっくりと唇を合わせた。
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