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「ただいま」
声をかけるも、『おかえり』と答えてくれていた祖母はもういない。匠が中2の時、病気で祖母が他界し、後を追うように祖父も亡くなった。
「お爺ちゃんとおばあちゃん仲良しだったから、仕方ないね」
祖父の葬儀の時、母は匠を抱き締めながら寂しそうに笑った。ここは母の実家で、祖父母や父がいなくなり、今は母と匠の2人で住んでいる。
母は祖父の弁護士事務所を継いで毎日遅くまで働いてるので、匠はいつも一人だった。
父さえ浮気しなければ……。
そんな風に父親を恨んだこともあった。
匠は、あの時見たように父は新しい家族と幸せに暮らしていると思いこんでいた。けれど、まだ高校生の育哉が一暮らしをしている。父に何かあったのだろうか?
それに、育哉は斉藤という苗字が嫌いだと言った。
……父と上手くいってないのかもしれないな。
そう考えると、何だか遣りきれなくなる。大人の勝手な理由に振り回されて傷つくのは、いつも子供なんだ。
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