はじまり

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匠が目を開けると、幼馴染みの篤司(あつし)が心配そうに覗き込んでいた。 「あれ、ここは?」 「良かった気がついた。ここは保健室だよ。匠(たくみ)、調理実習中に気を失って運び込まれたんだ」 「うわ、恥ずかしい。あれ……でも何で篤司がいるの?」 今日の合同授業は、春休み中に終わるはずの家庭科室改修工事が4月にずれ込んだため急遽行われた物だった。 匠は1組で合同授業は12組と一緒だった。この2クラスが選ばれた訳は、どちらのクラスも他に比べて人数が少ないからだ。 だから、2組の篤司が保健室にいるのが不思議でならない。 「俺は、体育のサッカーで膝を擦りむいて手当てしてたんだよ。そしたら匠が知らない奴におんぶされて運ばれてきたってわけ。そいつは今先生を呼びに行ってる」 知らない奴……。匠は怪我をした時の事を思い出して、顔をしかめた。 「篤司、あのさ……」 匠が話そうとした時、先生が慌てて飛び込んできた。 「矢萩(やはぎ)君、気分はどう?倒れたって聞いたからびっくりしたわ。貧血かな。とりあえず、怪我の手当てをしましょう」 先生は匠の左手からそっとキッチンペーパーを外した。 「血は止まってるわね。そんなに深い傷じゃないけど、指先って結構血が出るからびっくりしたでしょう。とりあえずこれを貼って様子をみましょう」 先生は引き出しを開けて創傷被覆材を取り出すと、傷口にペタリと張り付けた。 「これでよし。で、そっちの君はどうしたの?」 「先生、酷いな。匠の名前は覚えてたのに」 篤司が大袈裟に泣き真似すると、先生は呆れたようにため息をついた。 「ごめんね。でも先生、1000人以上いる生徒を全部覚えるなんて無理だわ」
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