はじまり

4/5
前へ
/127ページ
次へ
「分かってるって。俺は高浜 篤司(たかはま あつし)。匠とは小学校からの親友なんだ」 篤司は自慢げに言うと、ズボンを捲った。 「俺のは絆創膏を貼ったから大丈夫。ところで、先生を呼びに行った奴は?」 先生は篤司の膝をちらっと見て、笑いながらもう一枚絆創膏を貼った。 「傷の上に貼らないとね。ただ、貼りっぱなしはよくないから、なるべく空気に触れさせてね。そうそう、斉藤君は授業に戻ってもらったわ」 「あいつ、斉藤って言うんだ。俺もクラスの奴くらいしか名前分からないや」 篤司と先生が楽しそうに話しているのを、匠はぼんやりと見ていた。 「矢萩君はまだ具合が悪そうね。 親子丼の試食の時に斉藤君が呼びに来てくれるから、それまで寝てるといいわ。高浜君は授業に戻ってね」 「えーっ」と言いながらも、篤司は椅子から立ち上がった。 「匠、無理するなよ。じゃあな」 「うん。篤司ありがとう」 篤司が去ると、匠は目をつぶった。 すると、懐かしい人の顔が思い浮かんできて、涙が出そうになる。 匠は手の甲で目を隠した。 ……斉藤 育哉(さいとう いくや)。あいつとはもう関わりたくない。 匠は唇をギリリと噛み締めながら思った。
/127ページ

最初のコメントを投稿しよう!

406人が本棚に入れています
本棚に追加