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けれど匠の願いもむなしく、4時間目を少し過ぎた頃に育哉(いくや)が迎えに来た。
「大丈夫?」
心配そうに聞かれて、少しだけ罪悪感を
感じる。
「うん、ちょっと寝たらマシになった」
……そう言えば、まだお礼も言ってなかった。
匠は育哉に向かって頭を下げた。
「迷惑かけてごめん。ありがとう」
「いや、いいよ。そう言えば自己紹介もまだだったな。俺は斉藤 育哉、12組で陸上やってる」
匠達が通っているのは、全国的にも有名な私立の進学校だ。
匠達はこの4月で2年に進級したが、クラスはほとんど変わらない。
1組は特進クラス、2から4組は進学クラス、5から6組が演劇、まんが、イラスト、声優などを目指すクラス、7組は保育士、8から9組は情報処理、10から11組が医療関係を目指すクラスになっている。
そして12組というのは、スポーツ推薦で入学した生徒ばかりを集めたクラスだ。陸上の他にも野球、サッカー、バレー、水泳など様々な競技で活躍している生徒が大勢いる。
斉藤も大会でいい成績を残しているらしく、全校朝礼の時に度々表彰されていて、匠も勿論知っていた。
「僕は矢萩 匠。1組だ」
「学年トップだろ。試験の順位表で名前はよく見ていたけど、話すのは初めてだな」
家庭科室で怒鳴られたのとは全く違う優しい話し方に戸惑っていると、育哉が手を差し出した。
「まだ辛いなら支えるから、急いで家庭科室に戻ろう。親子丼、冷めたらもったいない」
けれども、匠は育哉の手を取らずにベッドから降りた。
「一人で歩けるから大丈夫。行こう」
「……ああ」
怪我した時結構酷いことを言ったから怒っているのかな。育哉はスタスタと前を歩く匠の背中を見ながら、自分の言動を思い出していた。
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