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その時、教室のドアがガラッと音をたてて勢いよく開いた。
「匠、帰ろう」
軽音楽部に所属する篤司は、部活帰りにこうやって匠を迎えに来てくれる。
「お迎えがきたな。じゃあ、矢萩、また明日な」
「うん、明日な」
匠は石川に手を振って、重い鞄を肩にかけた。
「篤司、お待たせ」
「待ってないし」
軽音楽部の練習が6時半に終わることを匠が知ってから、先に帰ってもいいと何度も篤司に伝えたが、気にするなと言ってこうやって待っててくれるんだ。
4月も終わりになり、日が長くなったとはいえこの時間になるとさすがに暗い。
「腹減ったな」
「うん」
「なんか食べて帰るか?」
匠の母親は弁護士をしていて遅くまで働いているので、こうやって篤司と夕飯を食べて帰ることも珍しくない。
篤司は先生に内緒で茶色に染めた髪の毛をワックスで遊ばせた、可愛い系の今時男子だ。
身長は匠より低い168センチだけれど、ギターが上手くて、明るくて、人懐っこい彼を匠は少し羨ましく思っていた。
「お金ないから止めとくよ」
「じゃあ、俺の家で食べようぜ」
「それも悪いよ」
匠が外に通じるガラスのドアを開けた時、すぐ横の壁に人がもたれていてびっくりした。
「ごめん、驚かせたな」
「あっ斉藤君、全然大丈夫。それより、誰かを待ってるの?」
「そう、お前を待ってた」
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