貴方と共に

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「もう、紅葉も散ってしまったね。もうすぐ冬が来て、そのうち雪が降るのね。」 「どうした?」 「白蓮が教えてくれた、氷瀑っていうのを見てみたい。それだけじゃない。白蓮が教えてくれた世界を、自分の目で見てみたいなって。」 「見に行くか?」 「え?」 「2人で、ここを出ていこう。葉月の願いは、ここから出ることだろう。2人で、どこか遠くへ行くんだ。」 「うん…、うん!白蓮と2人なら、何処だっていい。一緒に…」 「誰と何処へ行く気だ?」 白蓮との会話に夢中で、離れの扉が開いたことに気がつかなかった。 旦那様は不気味な笑顔で私を見下ろしている。 「女中達がお前の様子がおかしいと噂をしていてな。夕刻まで寝ていたり、何やら楽しそうに独り言を話していたり。気でも触れたようで気味が悪いとな。」 「………。」 「三葉。お前外に出たのか?」 三葉と呼ばれただけで寒気がして、肌が粟立った。 旦那様の視線の先には、白蓮がくれた紅葉の枝があった。 「何処にも行かせないぞっ。お前は一生ここで俺に愛されていればいい!お前は俺と子を生すためだけに存在しているのだ。何処にも行く必要などないっ!」 気持ち悪い。 私をまるで自分の所有物のように扱って、子供を産めだなんて…。 旦那様との子供なんて欲しくないっ! 旦那様は私の腕を強く掴み、畳の上に倒そうとした。 「やめ…」 「うがぁーーーっ!!」 旦那様の腕を振りほどこうとすると、悲鳴と共に腕から大量の血液が吹き出した。 旦那様は畳の上に倒れこみ、腕を押さえて悶えている。 私はそんな旦那様を汚い物を見るような目で見下ろす白蓮を見た。 白蓮の手には鋭い爪が生え、旦那様の血が滴り落ちていた。 「葉月に触れるな。汚らわしいっ。」 「ひぃーっ!ば、化け物っ。皆のもの、化け物だ!化け物が出たぞ!武器を持って離れへ!早くしろ!」 旦那様は大声で叫びながら、離れから逃げていった。 「白蓮、逃げて!殺されてしまう。」 「葉月を置いて私だけ逃げるなんて出来ない。ここに置いていったら、またあの男に汚されることになる。そんなこと、絶対に許せない。」 「私だって、もうあの人に抱かれるなんて耐えられない。でも、貴方がいない世界でも生きていけない。」
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