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私の世界は、この小さな離れだけ。
生まれたときからここを出ることを許されず、部屋に1つだけある丸窓から見える景色だけが私が知ってる世界なのだ。
この場所には決まった人間しか足を踏み入れない。
私に食事や着替えを運ぶ女中と、この家の旦那様だけ。
女中は絶対に私と口を利かない。
それどころか、ずっと俯いたまま目を合わせようともしない。
私と目を合わせ、触れ、話をするのは旦那様だけ。
ずっとずっと昔は寂しいと思うこともあったけど、もうそんな感情も何処かへ行ってしまった。
1日中、ただ窓の外を眺めるだけの日々。
母屋が見えないほど広い庭に生える木々たちが、季節の移ろいと共に姿を変える。
私はあと何度、この場所で四季の移ろいを見なければいけないのでしょう?
美しいはずの景色にも、もう何も感じない。
ガタガタと扉を開ける音が聞こえる。
今日の食事はもう終えたし、食器も下げに来た。
なら、今ここに来るのは旦那様だけ。
襖を開ける音が聞こえるけど、私はずっと夜空を見上げていた。
大きな満月が、火を灯していない部屋を明るく照らしていた。
「まだ起きていたか。明かりが消えていたから、もう寝てしまったかと思ったぞ。」
振り返りもせず、何も反応しない私を後ろから抱きしめてくる旦那様。
私の手を握り、指を絡めてくる旦那様の手が生温くて気持ち悪い。
「もう秋なのに障子を開けてるから、手が冷たくなってるぞ。今、暖めてやるから。」
そう言って障子を閉めようとする旦那様の腕を掴んだ。
「閉めないで。月が綺麗なの。それに、今から熱くなるんです。開けておいた方が涼しくていいですよ、きっと。」
「それもそうか。」
旦那様は嬉しそうに笑って、私に口づけをした。
そのまま敷いてあった布団に押し倒され、着物の帯にほどかれていく。
着物ははだけ露になった肌に、旦那様の手や唇が這っていく。
旦那様の息はどんどん上がり、暑い吐息が身体中にかかる。
心を無視して、快楽を感じる体。
最初の頃はこの行為が嫌で嫌で泣き叫んだけれど、それは旦那様を悦ばせるだけだった。
泣けば泣くだけ旦那様の行為は激しさを増す。
だから次第に泣くことを止め、感じているふりをして悦ばせ、早くこの行為を終わらせようとするようになった。
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