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「白蓮…、何処?」
膝を抱え、泣きそうな声で囁いた。
「起きたか?」
声が聞こえ勢いよく窓を見ると、そこには白蓮の姿があった。
私は窓に近づこうとしたが、体に力が入らず立ち上がることが出来なかった。
「無理をするな。昨夜はお前が意識を失うほど精気を吸ってしまった。何時までも目を覚まさないお前を見て、2度と目覚めないのではと不安だった。」
眉を下げ、私を心配そうに見つめる瞳。
愛おしそうに頬に触れ、親指で頬を撫でられる。
そして私は笑顔をむけた。
「不安にさせてごめんなさい。自分でも、起きたら夕方で驚いたわ。でも、後悔してない。私はこうして生きているし、貴方と愛し合えて幸せだった。ねぇ、私が望んだことよ?貴方も、後悔なんてしないで。」
「あぁ、わかった。でも、今夜はしないぞ。葉月の体が元気になるまでは、何もしない。」
私は残念そうに目を伏せた。
「そんな顔をするな。何もしないが、寄り添いながら寝よう。ずっと抱きしめているから。」
「ありがとう。」
「さぁ、飯を食え。そして今日はもう休もう。早く元気になるように。」
「わかった。ところで、目覚めたときにいなかったけど何処にいたの?」
「あぁ、それは…。少し、庭を歩いていたんだ。見舞いの品を探して…。それで、これを…。」
白蓮は自分の後ろに隠していた紅葉の枝を、そっと私に差し出した。
私はそれを受け取り、生まれて初めて紅葉に触れた。
「これを、私に?」
「こんなものしかなくてな。」
「そんな。すごく嬉しい。紅葉をあの窓から眺めることはあっても、触れたことはなかった。枝がこんな風にザラザラしてるとか、葉の先がギザギザしてるのも知らなかった。ありがとう。」
そう言って笑顔をむけると、白蓮は私の持っている枝から紅葉の葉を1枚取った。
そして私の髪を耳にかけ、そこに紅葉の葉を挿した。
「白い肌と黒い髪によく似合う。」
髪を飾ったりすることなんてなかったから、例え紅葉でも嬉しかった。
いや、愛する人から贈られた物なら何でも嬉しかった。
食事を済ませ、白蓮に凭れ掛かるように座った。
白蓮は後ろから包むように優しく抱きしめてくれた。
女中食器を下げに来たとき、何の反応もなかった。
いくら無関心でも、知らない男が居れば何か反応するはずだ。
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