新一年生

2/2
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
 歩道橋自体は交差点全体に架かる大きなものだが、その子達が上ってくる階段と下りる階段は一方向にしか設けられていないので、進むか引き返す以外は歩道橋から降りる術はない。むろん、何か理由があってその子が途中で帰ってしまっている可能性も考えたが、少なくとも歩道橋の真ん中辺りまでは赤いランドセルが見えているので、方向転換したとしてもさすがにそれは判るだろう。  なのに毎朝、赤いランドセルの子は歩道橋の途中で姿を消す。それに、もしやあの子は…という懸念を覚え、仲良くなり始めたご近所さんにそれとなく交差点のことを尋ねたら、かなり昔に、子供がなくなる人身事故があったと教えられた。  その当時はまだ歩道橋はなく、横断歩道を渡っていた新入生の女の子が、脇見運転の車にはねられて亡くなったそうだ。以来、少しでも事故が減るようにと、子供達の安全のためにあの交差点には歩道橋が架けられたらしい。  話を聞いて、私は一人納得した。  歩道橋の途中でいなくなる女の子。あの子は引き返しているんじゃなく、横断歩道が歩道橋になった今でも、自分が事故に遭った場所から先へ行けないでいるんだね。  あれからも、私は朝の支度の時、なんとなく交差点に目を向けていたが、ゴールデンウイークが終わる頃、赤いランドセルの女の子を見かけることはなくなった。  他の新入生達も学校に慣れてきたらしく、通学の様子もかなり落ち着いて、今は上級生達と同じように、はしゃぐことなく横断歩道を渡っている。  周りはそうやって変わっていくのに、ずっと変わることがてきないまま、歩道橋に現れる女の子。  来年もあの子はここに現れるのだろうか。そう思うと、他人事ながら胸の奥がずきんと傷んだ。 新一年生…完
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!