「ごちそう」

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私は小学校の教師をしています。私のクラスに、一人気になる子がいます。 名前は斎藤雅也、小学五年生。彼は母子家庭で一歳になる弟がいて、母親が朝から晩まで働いている為、彼が時々弟の面倒を見ていた。 その為か平均体重、身長を比べてしまうとかなり痩せていたし、身長も低い方ではあった。 着ている物も着古した感じがし、穴が開いている事もしばしば、そんな事もあり他の生徒よりも気にかけていました。 「お母さんいつならいるかな?」 「分かんない。」 何度か面談を希望するも、電話も通じず困っていた。 「あ、でもね、明日はごちそうだから、お母さんいると思う。」 「ごちそう?」 「うん、おじさん連れてくるって言ってたもん。」 夜の商売をしていると聞いていたので、もしやそのお客さんなのだろうか。 明日在宅ならば少しの時間でも話しておきたい。 私は、翌日の夕方に斎藤君の家を訪ねた。 小さなアパートの一室、チャイムを鳴らすがなかなか出てこない。しかし、子供の声がするので居るのは確かだし、少しだけ開けられた窓からは美味しそうな匂いが漂っていた。 「あの、すみません。雅也君の担任の江原と申します。雅也君の家庭生活の事でお話出来ないでしょうか。」 するとドアが開き、中から少し派手な化粧の母親が姿を現した。 簡単な挨拶をして、普段の生活を聞き、困っている事、雅也君の今後をどうしたいかなどを話すと、母親は時々頷きながら大人しく聞いてくれたし、宜しく頼むと言ってくれた。 「忙しいお時間に申し訳ありませんでした。」 頭を下げた時、玄関に男物の革靴がある事に気がついた。どうやら、おじさんが来ているようだ。それで母親はご馳走を作っていたわけだ。 「先生、帰るの?」 奥からひょっこり顔を出した雅也君は眼鏡をかけていた。 「あれ?雅也君目悪かった?」 「違うよ、おじさんのだよ。」 おじさんの眼鏡・・・・。 よく見ると、レンズにヒビが入っていた。 しかも、曲がっているようだ。 「では、先生お気をつけて。」 「あ、はい。失礼します。」 母親に促され、部屋を出ようとしチラリと視線を向けた先に、彼の弟がハイハイしながらこちらへ向かっているのが見えたのだが、顔中血まみれだった。 私は暫く閉められたドアを見つめるしかなかった。
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