「団地」

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うちの団地は老朽化が進みかなりボロい。 雨漏りはするわ、床は軋むわ。 そしてエレベーターがよく止まる。 そんなんだから、止まればまたか、位にしか思っていなかった。 あの日までは・・・。 そう、ある日を境に俺は色んなモノが見えるようになってしまった。 例えば、エレベーターのドアが途中で止まり、開き、閉まろうとするとまた途中で止まり、また開き、そんな事を繰り返している時が多々ある。 中に乗っている人間も何度も閉まるボタンを押すもなかなか閉まらずイライラするばかり。 実際は、老朽化、なんて言葉で片付けられるモノではなかったのだ。 俺には見える。 上半身を折り畳む様にした格好の男が何度も挟まれているのを。 だから、その度ドアは開閉を繰り返しているのだ。 またある時は、乗っている人数が少ないにも関わらず重量オーバーのブザーが鳴り響いた。 皆不思議そうな顔をして、また誤作動位にしか思っていないみたいだが、実際は目に見えない人が沢山乗っていた。 まあ、お化けに重さがあるの、なんて野暮な事は言わないで欲しい。 またある雨の日は、エントランスに三本の線が着いていて、其れがどんどん広がって行く。 よく見ると、小さな男の子が三輪車をキコキコ漕いでいるではないが。 普通なら微笑ましい光景だが、そうならないのは男の子の目が真っ黒の空洞になっているからなのかもしれない。 兎に角、そんな事が日常茶飯事なのだ。 怖いかと聞かれたら、最初こそ理解に苦しんだが今は快適である。 不思議と集まりやすい場所というのが存在し、たまたまここだっただけの事かも知れない。 何故俺が見えるようになったのか? ああ、それは、あの日、この団地の屋上から飛び降りたからだよ。 そう、おれもあちら側のモノだからさ。 住み慣れてしまえば、案外居心地がいいものだよ。 どうだい、不思議な体験がしたければうちの団地をお勧めするよ。
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