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終電の帰り道、線路沿いの一本道を均等に配置された電柱の明かりを頼りに歩き出す。
都会から離れた場所の為、人が居なくて心細い。
すると、後ろから物凄い勢いで走るハイヒールと思われる靴音が聞こえてきた。
立ち止まり振り返ると、髪を振り乱し必死の形相で走る女の人がこちらへ向かっている。
誰かに追われているのか。
声を掛けようとすると、その人は私の目の前まで来て、乱れた呼吸のまま両手で私の肩を掴み「・・・・・・ごめんなさい。」と言って、また走り去ってしまったのだ。
突然の事に茫然と立ち竦んでいると、今度は「ペタペタペタ・・・」そんな音がする。
音のする方へ目を向けると、何かが近づいてくるのがわかる。
そして電柱の下にきた何かが、ようやく正体を現した。
なんて表現して良いのかわからない。ぬるっとした緑色の体、髪の毛は無い、目が縦に付いてて、牙のついた大きな口が「オデ、オニ、オデ、オニ。ツカマエルゾ、タベチャウゾ。」と、繰り返した。
手にはナタ?の様な刃物、それを振り回しながらこちらへやってくる。
私は逃げた。奴は私を追ってくるからだ。
なんで?何、あれは何、なんで私を追ってくるの?
暗闇に、私の足音と、ペタペタと奴の足音が響き渡る。
パニックになっている頭で、先程の女性を思い出した。
ごめんなさい。と言う前に何か言っていた。何て言ってた?思い出せ、思い出せ・・・。
あっ・・・・。
少し先にフェンスに凭れ泥酔している若い男の子が見えた。
私は迷わず彼に近づき、その肩を揺さぶるようにして起こした。
「んんっ?あんた、だれ?」
寝惚けている男の子は、目を擦りながらこちらを向いた。
「今度は、あなたが逃げる番。」
そう言った私は、心の中で謝り続けながらその場から立ち去った。
あれが正解だったのか、その後はあのペタペタと貼り付くような足音はなく、無事家に帰ることが出来た。
疲れきった私は倒れ込むようにして眠りにつき、翌朝のニュースに言葉を失った。
今朝早く、何者かによって切り刻まれた死体が線路沿いの道路で発見された。人間の所業には思えない残忍さであり、また頭部は見つかっていないとの事。
あの言葉を言わなければ、私が彼と同じ姿になっていたかもしれない。だけど、私のせいで・・・。そう思うと罪悪感に苛まれた。
あれは何だったのだろうか。
ペタペタと走るあの音が今も耳を離れない。
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