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繋がれていくもの
たった数日。
そう、たった数日前までは映像越しに見ているだけだった。
大変だとかそうなったらどうするとか、話しはしていたけれど、所詮他人事だったんだ。
ハンドルを握る手が嫌な汗でベタつく。
寒い訳でも無いのに震えは止まらない。
早くしなければと焦る心と、駄目だ嫌だと進みたくない心がせめぎあう。
車中に充満する重い空気で息苦しさを感じる。
車を走らせながら助手席に座る母に視線を流すと、穏やかな顔をしていた。
母のこんな穏やかな顔を最後に見たのはいつ以来だろうか。
女手一つで僕を育ててくれた母。
厳しくも優しくもあった。
子供の頃、死ぬんじゃないかと思う程の高熱を出した事がある。医者にもこのままなら覚悟してくれと言われたと母に聞かされた。
なんとか山を越え、熱も命に影響しない程度まで下がった夜だった。ふと目を覚ました時に付き添いで病院に泊まってくれていた母が、僕をこんな表情で見つめていた。
堪らない気持ちが込み上げて、僕は母から視線を反らした。
後部座席では、妻が声を押し殺して泣き続けている。
その腕には力無くぐったりと眠る娘が居る。
やり場の無い怒りと悲しみを、どうして良いか解らない。
僕達家族だけでは無い。
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