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03 小さな部屋
ぼくの悪夢は中学校2年生の夏に、とても唐突な終焉を迎える。
アイスクリームは溶けてぼとぼとと、床に零れ落ちた。
バニラ味のアイスクリームにまみれたコーンが、テーブルの上に転がったままになっている。もったいないな、という気持ちと、早く掃除してしまわないと、という焦燥がないまぜになっていた。
父さんが、チョコレートと引き換えにちゅーを要求したあの日から、ぼくたちは母さんの目を盗んでしばしば同じことをやった。
口の中に入り込んでくる生温かい感触や、生臭いような口臭は不快でしかなかったけれど、その後でお菓子がもらえるからどうでも良くなっていた。それに、一度も母さんに見つかったことはなかったので、怖い、という感情も次第に薄れた。
その日、それが終わり、アイスクリームを食べ始めたぼくを見て、父さんはいつもと違うことをしようとした。
身体を触ってきた。
イスの後ろから、セーラー服の襟口から手を差し入れ、胸のあたりを触られた。
くすぐったいけれど、アイスクリームは溶けかかっていて、それどころじゃなかったから、ぼくは急いでそれを頬張った。
手は腿のあたりにも延べられ、スカートのプリーツを弄んでいたかと思えば、その中に滑り込んできた。
父さんの息が、フーフーと髪を揺らして、とても嫌だったけど、ぼくはそれを耐えてコーンを一口齧った。
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