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「大体な」と、フィネガンは名無しから生えた羽を、ぐいっと引っ張った。
「なんだこの、無駄にでかい羽は。こんなんがあるなら、出し惜しみしないでさっさと言えってんだ。岩なんて登らせやがって。これなら、船がなくても島からも出られるじゃねぇか」
言いつのるフィネガンに、名無しは少しだけ、表情を曇らせた。
「その。嫌われると思って」
「アホ。飢えながら暮らしてやばいってなってから、実は羽があるんですーここから出られますーって言われる方が、よっぽど腹立つわ」
言いながら、フィネガンは名無しの背にしがみついた。
「良いか。散々こき使ってやるから、覚悟しとけよ。先ずは洞窟に運べ。ただし丁寧にだ」
「でも、僕」
「でも、じゃねぇ」と、フィネガンが羽をぐいっと引っ張る。
「痛い、痛いよ」
「友達、なんだろ。さっさと言うこと聞け」
ぶっきらぼうに言い放つと、名無しはぴたりと動きを止めた。
「……それは、友達じゃなくて召し使いじゃないのかな」
「どっちも、似たようなもんだろ」
ふふふ、と小さな笑い声が聞こえたかと思うと、緑色の翼が星明かりに煌めきながら大きく広げられた。その様は、まるで海に星が映るのと同じで。
「それじゃあ、しっかりつかまって。――せっかくできた友達を、落としたくないから」
そう言って名無しが飛び立つ瞬間、歌うような笑い声がどこからか聞こえた気がして、フィネガンは星空を見上げた。遥かな空は、ただただ美しい煌めきに満ちていた。
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