海鳥は夜空に煌めく

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 アホか、とフィネガンは小さく呟いた。自分の手にはめた指輪をちらりと見、それからゆっくりと上がっていく名無しの背を確認する。  意外にも、名無しは危なげなく登り進めていく。戦装束は単なる飾りというわけでもないらしい。充分に見上げる程の高さになった所で、フィネガンも岩場に手をかけた。  僅かに傾斜のある岩場は、見た目よりもさほど力を使わずに登れる。それでも、疲労を覚えずに登れるのは最初の僅か数分間だろう。この暗さでは、手がかりを探すのにも昼間に比べ時間がかかる。岩場の頂上までなど、とてもたどり着けない。  フィネガンよりも先に登りだした名無しは、そろそろ疲労を覚え始めているだろう。高さは、岩場の半分よりも少し下くらいか。 「おい! そろそろ無理すんな」  フィネガンが声をかけると、「でも!」と言葉が返ってきた。 「もう少しで、遠くまで見えそうなんだ。あと少し」  フィネガンは舌打ちした。その「もう少し」が、危ういと言うのに。 「あんた、自分のこと分かってねぇから無茶してるみたいだけど。いい加減頑張ったから止めとけ! こんなん慣れてないはずだ。すぐ限界がくるぞ」  その時だった。上の方で、がらっと音がする。はっとした時には、名無しの身体が宙に浮いていた。  言わんこっちゃないーーそう思っている間にも、名無しがどんどん落ちていく。諦めをもってそれを見つめるフィネガンのそばで、強い風が吹いた。 「っ!?」  ぐっと壁にしがみつき、必死で耐える。風が止むと急いで地面を見たが、地上は暗く名無しの姿は見えなかった。 「くそ……」  降りるため、慎重に足場を探す。だが、ふと周囲の暗さが増した。すぐ背後で、小さく風が鳴る。  はっとして振り返る前に、両肩を強くつかまれた。そのまま、岩場から引き離される。 「な……っ」  見上げると、大きな翼が目に入った。星明かりに、鮮やかな緑色が煌めく。次いで、それが人に似た形をしていることに気がついた。だから何だと言うのだ。化け物だ。翼のある海の魔女ーーセイレーンだ。
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