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セイレーンの巨大な鳥脚が、肩をつかんでいる。そう自覚するとほぼ同時に、ぐんと高度が上がった。名無しが見ようとしてた外海が確認できる高さまで、ものの数秒で届く。遥か遠くに、暗い影の固まりが一つ。だがそれが何だというのだ。
「く……っ」
怪物の巣に運ばれるのと、ナイフを突き立てこの高さから落ちるのは、果たしてどちらの方が生存確率が高いのだろう。
だが、フィネガンが答えを出すより早く、今度は急激に下降し始めた。悲鳴が小さく口から漏れる。そのまま、地面に激突するかときつく目をつむるーーが、その寸前で、ふわりと身体が浮いた。
「なん……だぁあッ!?」
いきなり肩を放され、フィネガンは体勢を崩したまま地面に落ちた。大した高さではないが、強かに尻を打つ。
「いってぇ……」
「大丈夫かい? どうも不慣れで」
そう訊いてきたのは、傍らに降り立ったセイレーンだった。信じられない思いで、フィネガンはその化け物を見た。
「なんで、お前」
化け物が。怪物が。申し訳なさそうに微笑む。
「ごめんよ。僕、夜目が効くみたいで」
「いや、そうじゃないだろ」
苛立ちを抑えながら、フィネガンはセイレーンを睨んだ。
「なんでお前が魔女なんだよーー名無し」
「なんでって言われても……セイレーンを魔女と呼ぶのはただの俗称だから。数は少ないけど雄もいなくはないんだ」
セイレーンーー名無しが答えるのに、「そうじゃない」と言い返す。
「お前、記憶がないなんて嘘だったのか」
「嘘じゃないよ。ただ、無意識に力を使った後、段々と思い出したんだ。ほら、瓶の箱を」
名無しの言葉を、フィネガンは手を振って遮った。
「じゃあこいつは何だ。本物からぶんどったのか?ーー王子サマ」
そうフィネガンが示したのは、 例の指輪だった。
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