海鳥は夜空に煌めく

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「ここはな、いわゆる無人島だ。真水も、ろくな食いもんもない。しかも、海の魔女セイレーンの縄張りだから、賢い船は先ず通らねぇ。こんな所で、自分が誰かなんて何の意味がある?」 「はぁ……」  記憶はなくとも育ちの良さなのか、男は言われるままに頷いた。そこを畳みかけていく。 「つまりだ、あんたが誰で俺が誰であろうと、こんな所で奇跡的な出会いをしたんだ。それだけでもうマブダチだ。心の友ってやつだな。助け合わにゃならん」 「えっと……はい」 「素直で結構。さしあたって、だ。友情の証しに……そうだな、このバンダナをやろう。陽射しの強いここじゃ必需品だ。だがあんたにやるよ、心の友だからな。代わりに、まぁ、この島ではなんの価値もないが、指輪でも貰おうかな。友情の証として」  自分が身につけていた赤いバンダナを、押し付けるようにして男に巻いてやる。男はフィネガンの言葉に、初めて指輪の存在に気づいたようだったが、まじまじとそれを眺めると「良いですよ」と軽く請け負った。 「必要ならどうぞ、交換しましょう」 「ん? そうかそうか。いやいや、さすが心友だな。うん、ありがたくいただこう」  若干拍子抜けしつつも男からひょいと指輪を受け取り、自分の右手にはめる。繊細な造りが無骨な指に似合わないが、そこは頓着しない。  「それで」と、男は屈託なくフィネガンに笑いかけてきた。 「貴方のことは、何とお呼びすれば良いですか?」 「お呼び! なんつーか、ケツがむず痒くなる喋り方だなぁ名無しくん?」  名無し、と呼ばれ男はくすりと笑った。 「そう……だね。じゃあ、何て呼べば良いかな? 君のこと」 「あぁ、そう。良いね、そんな感じ。俺はフィンって呼ばれてる」  立てるか? と、フィネガンは名無しを促した。 「取り敢えずは水の確保だ。転がってる木箱の中身を出して、ねぐらまで運ぶぞ」 「了解」  名無しは頷くと、フィネガンに手を差しのべた。
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