海鳥は夜空に煌めく

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「岩場って、あれか?」  フィネガンは眉を寄せたが、名無しは頓着なく「うん」と頷く。 「あそこは、魔女共の住み処だって説明しただろうが」 「でも、現状のままよりは良くないかな? 少しでも情報は欲しいし、例えセイレーンが直接人間を襲ってきたとしても、僕が死ぬだけだよ」  さらりと語られた言葉に、少なからずフィネガンは驚いた。 「お前、自殺願望でもあるのか?」  名無しは「そういうわけじゃないけど」と笑う。 「どうせ、干からびる前に君に助けられなかったら無かった命だし。だったら、少しでも友達の役に立つ方が良いだろう」  理解できないことに、名無しの目はあくまで穏やかだった。嘘もなく、飾ることもなく、ただ思っていることを淡々と語る目。 「……あんたがそう言うなら、別に良いけど」  確かに、外の様子を知ることで打てる手数が増えるのは、生存率を上げることになる。万一のときには水の分け前が増えるのもありがたい。フィネガンにとって、名無しの心情が理解不能であること以外、特に悩む理由もない。 「なら、決行は夜だな。奴等は夜目が効かない……って話だ。鳥みたいなもんだからな。どこまで本当かは知らん。あと、俺も後からついていく」 「ついていくって。でも、それじゃ」  「まさか」とフィネガンは軽く手を降った。 「俺は遠くからついてくだけだ。ヤバけりゃすぐ逃げる。外が見れるなら俺も見ておきたいしな」  「そうと決まったらさっさと食って少し寝ろ」と、フィネガンは貝をもう一つくわえながら名無しに言った。 「岩場を登るには体力がいる。思い立ったが吉日だが、あんたは今日死にかけてたばかりだ。起きたときふらふらしてたんじゃ、話にならん」  名無しがクスクスと笑い、「了解」と頷いた。 「この貝、美味しいね。不思議な食感がする」 「そうか、じゃあよく噛み締めとけ」  呆れながらそう答え。目の前の育ちの良さそうな男が実は阿呆なのではないかと、フィネガンは少し不安になった。
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