8人が本棚に入れています
本棚に追加
※※※
他に灯りがないためか、島の夜は空がかえって明るく見えた。満ちた杯から溢れ落ちたかのように、数多の白い星が空一杯に散りばめられ、輝いている。
「多分、ここからが一番登りやすい」
岩場のふもとでフィネガンが説明すると、名無しは少し驚いた顔をした。
「なんだ。フィンも上ろうとしたことがあるんだ」
「リスクが高すぎるから止めたんだよ。俺は賢いからな」
手足を解しながら「良いか」と言葉を続ける。
「正直、魔女云々以前に、この岩場を登るってこと自体が危険だ。降りることも考えて、手足が疲れてきたと思ったら途中で引き返せ。とにかく、手よりも足の置き場に気をつけろ」
「さすが、高い所に登りなれてる感じだね」
名無しが笑い、ふと首を傾げる。
「でもこんなに暗いと、遠くを見て島があるかどうかなんて分かるかな」
「今日はよく晴れてるから、海は星の光を反射する。一部分だけ暗いところがありゃ、それが島だ。
ーーいいか。周囲を確認して他に島があったところで、そこの環境がここより良いかも分からん。ここで無理しすぎるとバカを見る。あんたが本当に死にたいんじゃなけりゃ、無理するな」
名無しが、きょとんとこちらを見ているのに気がつき、フィネガンは眉を寄せた。
「なんだよ」
「いや」
星明かりの下で、名無しが笑う。ふっと、目尻を緩めて。
「フィンは、優しいなと思って」
「心の友だからな。アホ言ってないで、さっさと行け」
「うん。でも」
くすくすと笑いながら、名無しは岩場に手をかけた。フィネガンに背を向け、一歩目を踏み出す。その後ろ姿が、月の薄白い光に照らされる。
「無事に戻れたら、僕ら本当の友達になりたいな。これだけ星が綺麗な夜なんだ。一つくらい、願いを託せる星が、いるかもしれないよね」
最初のコメントを投稿しよう!