第1章 孤独のトンネル 前編

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深夜3時。 あれから店も閉めずぼんやりと過ごしていた。 ダイゴはやたら眠たそうにしていたので帰宅させた。ほぼ無意識に煙草を吸っては吐き出し、ビールを流し込む動作を繰り返していた。 まるで壊れたカラクリ人形のように。 一体自分は何なんだろうか? 夢を棄て全てを無くし、まともな職にも就かず、 最終的に小さなバーのマスターとなった…。 気怠い毎日。 不安定な思考。 そして孤独。 それは煙草の煙と共に天井へ静かに舞い上がっては消える。さすがに吸い過ぎたのか煙草はもう残り1本になっていた。 これもいつもの事だ。 煙草を買う為に店を閉めてそのまま家に帰る。 家と言っても古い木造アパートに1人。 ダイゴという理解者がいる事を除けば、店にいる事となんら変わりはない。 しかし1人でもそう言う人間がいる事は、唯一の救いなのかもしれない。もし、それすら存在しなかったら…? 「もうやめよう考えるのは」 うそぶいて店の鍵をじゃらつかせながら席を立ったその時だった。 カランとドアの鈴が鳴ったのだ。 ぎくり、として振り返る。 そこには黒いコートを着た若い男が立っていた。 髪はぼさぼさ。 顔は前髪ではっきりとは見えない。 体型は俺より背が高く、がっしりとしているがすごく痩せている。今にも倒れそうだ。 「いらっしゃい、どうぞこちらへ」 恐る恐る俺は彼を店へ招き入れた。 男はふらふらと歩き、カウンターに座った。 俺が何にしましょうか? そう聞いても返事もしない。 もう店閉めます、そう言えば良かったと後悔した。 「何にします?寒いですし、コーヒーとかありますが」 「あんたは」 「はい?」 「亡霊を信じるか」 「え?いや…信じないと思いますが?」 男のひび割れた唇がニヤっと笑った気がした。
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