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深夜3時。
あれから店も閉めずぼんやりと過ごしていた。
ダイゴはやたら眠たそうにしていたので帰宅させた。ほぼ無意識に煙草を吸っては吐き出し、ビールを流し込む動作を繰り返していた。
まるで壊れたカラクリ人形のように。
一体自分は何なんだろうか?
夢を棄て全てを無くし、まともな職にも就かず、
最終的に小さなバーのマスターとなった…。
気怠い毎日。
不安定な思考。
そして孤独。
それは煙草の煙と共に天井へ静かに舞い上がっては消える。さすがに吸い過ぎたのか煙草はもう残り1本になっていた。
これもいつもの事だ。
煙草を買う為に店を閉めてそのまま家に帰る。
家と言っても古い木造アパートに1人。
ダイゴという理解者がいる事を除けば、店にいる事となんら変わりはない。
しかし1人でもそう言う人間がいる事は、唯一の救いなのかもしれない。もし、それすら存在しなかったら…?
「もうやめよう考えるのは」
うそぶいて店の鍵をじゃらつかせながら席を立ったその時だった。
カランとドアの鈴が鳴ったのだ。
ぎくり、として振り返る。
そこには黒いコートを着た若い男が立っていた。
髪はぼさぼさ。
顔は前髪ではっきりとは見えない。
体型は俺より背が高く、がっしりとしているがすごく痩せている。今にも倒れそうだ。
「いらっしゃい、どうぞこちらへ」
恐る恐る俺は彼を店へ招き入れた。
男はふらふらと歩き、カウンターに座った。
俺が何にしましょうか?
そう聞いても返事もしない。
もう店閉めます、そう言えば良かったと後悔した。
「何にします?寒いですし、コーヒーとかありますが」
「あんたは」
「はい?」
「亡霊を信じるか」
「え?いや…信じないと思いますが?」
男のひび割れた唇がニヤっと笑った気がした。
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