第1章 孤独のトンネル 前編

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「あんた手首に傷があるな?」 言葉が出なかった。 乱れた前髪から時折見える死んだ魚のような瞳が 俺を睨む。 手首の傷。過去。絶望。 ある事がきっかけで生きる術を失くし、手首を切った事が確かにあった。 「自殺はいけないな。でももう遅い」 「さっきから何言ってんだ!」 「償え」 「なっ…?」 むくりと立ち上がり、男は大きな手で僕の頭を鷲掴みにした。強烈な痛みが頭を包む。 「離せ!!」 体がぴくりとも動かない。 こいつは一体なんなんだ? 「死にたいか?」 「死にたく…ない」 「手首…切ったじゃないか」 「やめてくれ…」 「生きたいか?」 「生き…たい」 「じゃあ償え、救え。無駄に苦しむ者を」 「何を言って…る」 「悩み苦しむ者を救え。それが生きる為の約束だ」 「わ…分かったから…離してくれ」 突然すっと頭が軽くなるのを感じ、余りの痛さに閉じていた目をゆっくりと開ける。 すると不思議な事に聞き慣れた声が鼓膜に響いた。
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