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「あんた手首に傷があるな?」
言葉が出なかった。
乱れた前髪から時折見える死んだ魚のような瞳が
俺を睨む。
手首の傷。過去。絶望。
ある事がきっかけで生きる術を失くし、手首を切った事が確かにあった。
「自殺はいけないな。でももう遅い」
「さっきから何言ってんだ!」
「償え」
「なっ…?」
むくりと立ち上がり、男は大きな手で僕の頭を鷲掴みにした。強烈な痛みが頭を包む。
「離せ!!」
体がぴくりとも動かない。
こいつは一体なんなんだ?
「死にたいか?」
「死にたく…ない」
「手首…切ったじゃないか」
「やめてくれ…」
「生きたいか?」
「生き…たい」
「じゃあ償え、救え。無駄に苦しむ者を」
「何を言って…る」
「悩み苦しむ者を救え。それが生きる為の約束だ」
「わ…分かったから…離してくれ」
突然すっと頭が軽くなるのを感じ、余りの痛さに閉じていた目をゆっくりと開ける。
すると不思議な事に聞き慣れた声が鼓膜に響いた。
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