第1章 孤独のトンネル 前編

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携帯のアラームに叩き起こされた。 自分で設定しているのに不快でしかない。 午後13時。 いつもと変わらない目覚め。 昨日の黒い男…あれはやはり夢だったのか。 今はその考えが妥当だと思う。重い体を起こし、コーヒーを入れ、煙草をくわえる。 こうしてまた1日が始まるのだ。 開店は19時。 まだ寝ていたい気もしたが今日は少し散歩でもしてみようか、そう思った。 無理矢理苦いコーヒーを飲み干し、俺は外へと出掛ける。 風は冷たく、空はどんよりと曇っている。 散歩には正直相応しくない天気。目的地も決めず、ぼんやりと歩く。近所の静かな裏通りにはのんびりとした老人達が歩いていた。 俺も同じように我が道を行く。 顔見知りの老人に軽く一礼しながらふと思う。 俺も歳を取り、こうして散歩をするのだろうか? 今と変わらない生活を続け、なんとなく それでいてゆっくりと死を迎えるのだろうか? ごく自然に。 そう思うと何故か泣きそうになる。簡単に言えば、寂しいのだろう。孤独が冷たい風と共に身体を通り過ぎてゆく。 「ケン?ケンだよね?」 不意に遠い昔に聞いた声が背中に触れた。
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