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京都の夏は暑いと聞いていたけれど、夏の終わり、九月も後半となると幾分涼しい風が吹いていて、昼過ぎでも十分に過ごしやすかった。嵯峨野の緑はぼくの実家の周りの緑とは少し色が違っていて、ほのかに淡い。秋が近付いていても、透けるような緑がまだ残っていて、それらが幾重にも重なっていた。竹林がどこか懐かしい雰囲気のある里山を覆い尽くそうとしている。道路のアスファルトが割れ、そこからセイヨウタンポポが二本生えていた。苔むした祇王寺の庵でしばし脚を休めた後、元来た道を左に曲がり、北の化野念仏寺に向かう。
こっちに来てからは一人で過ごすことが多くなった。大学進学で彼女と別れてから、季節の好みは変わっていない。彼女と言っても、恋人として付き合っていたわけではない。小さな頃から家が近所で、高校までずっと一緒だったから、帰り道が同じだった。二人で色々なことを話しながら、最後のT字路で別れた。話しているのはほとんど僕で、彼女は主に聴き役だったけれど、それでもいつも楽しかった。ぼくはゲームや部活の話をして、彼女は主にご飯の話をしていた。それだけじゃなく、もちろん色んな帰り道があった。夏祭りの後、綿飴とかき氷を交換した帰り道。夏を閉じ込めようと蝉を捕りにいった帰り道。突然山に行くと言い出した彼女に、無理やり付き合わされた時の長い下り坂。融けたかまくらを壊して帰った期末試験の後の雪道。そして、二人で最後に歩いた高校の卒業式。最後の帰り道、最後のT字路で「またね」と言って曲がった後、僕は立ち止まり、振り返った。その先に彼女はもういなかった。見えなくなるにはまだ早いのに。走っていってしまったのか、元来た道を戻っていったのか。ぼくには秘密の、会いたい人がいたのだろうか。それ以来、季節の好みは変わっていない。
化野念仏寺は少し遠かったが、その帰り道、夕暮れの赤さを見て、夏はやっぱり終わり、秋は始まりが良いと思った。季節は帰り道に感じるものなのだと、気付きもした。
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