0人が本棚に入れています
本棚に追加
「んぅ…」
見慣れない景色だ。
これは闘技場…なのだろうか。風に舞う土埃と、天井のないドームの造りによる強い陽射しが視界を遮り、滲む汗と身に着けている軽防具が肌の感覚を鈍らせる。
小さな砂塵の向こう側には、1つの人影。右手に剣を構え、長い髪と膝辺りまで伸びるマントを翻らせながらゆっくりとこちらに近づいて来る。
一歩、また一歩と距離が縮まるにつれ、俺の身体中にもふんだんに汗と砂がこびり付く。
「……っ」
…動けない。
いや、動こうと思えばきっと動けるのだろう。しかし、それは同時に死を意味することのように思える。
ふと、砂塵に遮られた視界の左端に、新たな人影が現れた。
「うぁぁぁっ!」
手に持った短剣を胸の前に構え、赤いミドルの髪を振り乱しながら、彼女は先程の人影の懐に飛び込む。が、人影の剣が一閃を薙ぎ、短剣は宙を舞う。
「ひっ…」
引き攣ったような声が聞こえるが早いか、続いての一閃で彼女の胸は人影の剣に貫かれていた。
そのまま、地に伏せる彼女の姿。それを目にした時、俺の中で何かが弾け飛ぶ。それは恐怖か、はたまた自我か。
自分でも訳がわからないものが弾け、それが俺のエンジン、動力となって体を動かす。
「うぉぉぉぉぉぉぉっ!」
無意識に拾い上げた、刃がこぼれ中間で折れた剣を振り回し、人影に肉迫する。が、それは人影に届き得る前に…
「縁に結ばれたパートナーがこの体たらくではな…。真に残念だ…」
俺の眼前に待ち構える剣先に…俺は…
最初のコメントを投稿しよう!