0人が本棚に入れています
本棚に追加
「おいおい、嘘だろ嘘だろ…」
さすがに、美海のイタズラではあるだろうが、あいつはこれまでそんなキャラじゃなかった。逆に、俺のイタズラに対して怒るというようなタイプだ。どんな心境の変化があったのか。
だがこれがもし、美海ではないというならばどうだろうか。両親は共働きで日中家には居ないし、俺には他に兄弟がいるわけでもない。
まさか泥棒ということもないだろうし。と言うか、入った家の主が寝ているベッドに上がり、壁に魔法陣みたいなものを描いて行くという馬鹿な真似をするやつがいるとも思えない。
「友達とか、そんなやつもいないしな…」
自分で言っていて情けないが、ここまでで気付いている者もいるだろう。
そう、俺は俗にいう引き篭もりというやつだ。
美海と共用の部屋であるため完全に部屋に引き篭もれてはいないし、そのせいかあまり実感もなく、外にも出歩くしお遣いにだって普通に行く。ただ学校に行っていないだけだ。
しかし、世間一般では引き篭もりという。
まあそれはさておき、つまるところこんなイタズラをするやつなんてほとんど心当たりがないわけで、こんなただの模様ではあるものの、率直に怖い。
「とりあえず、消さないと気味が悪くて寝てられないな…。これ…水で落ちるよな…」
そう言いながら、壁に描かれた幾何学模様に触れる。
「っ!?」
すると、まるでそこに何もないかのように、模様に触れたはずの手が呑み込まれた。
「ちょ、うわっ」
慌てて手を引っ込めるが、模様は依然そこに浮かび上がっている。
「…なんだよこれっ」
気持ち悪いという感覚とほんの少しの恐怖心からしばらくその模様を見ていたが、とうとう耐えられず、俺は一階の台所へと向かった。
「何だったんだ…。あんなもの、普通に考えてイタズラの域越えてるだろ…」
文句とも独り言とも言えない言葉を吐き、俺は台所にある時計に目をやる。
時計は17:20を指していた。
もうすぐ美海が帰ってくるな。
そんな事を思いながら、母さんの作った飯を食べようと、冷蔵庫に手を伸ばすが。
『ブゥォン…』
「わぁっ!」
再びあの模様が、今度は冷蔵庫に現れた。
最初のコメントを投稿しよう!