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引っ張り込む力に逆らいながら、左手で美海の右手を掴む。
「ん…ぅ…っ!!」
「ぅ…あぁぁっ!!」
模様へと引き込む力に対し、二人の力で対抗した結果、徐々にではあるが右手が模様から出始めている。
「んん…っ!まだ…なの…っ!?」
「も…ぅ…ちょいっ…!!」
がしかし。
「うあっ!?」
「えっ?きゃぁっ!!」
今度は直に、俺の右手を誰かに掴まれ、引っ張られた。
ただでさえ強い力で引き込まれているところへ急な力の追加がなされたことで、俺達のバランスは崩れ、一気に二人とも魔法陣へ引き込まれてしまった…。
…
……
………
「やっと来たわね。英雄様は遅いご到着が当然なのかしら?」
暑い空気。少し埃っぽい砂地の闘技場。
周りの観客席にも、大勢の観客が。
そして、目の前には俺の右手を握った赤いミドルの髪の女…。皮肉混じりの赤い眼を俺に向け、そのスレンダーな腰には剣の鞘が納まり、側には恐らくその鞘に収まっていた剣が突き立てられている。
俺の左手には美海の手。もちろんその先には美海自身。
俺もだが、美海もいつものクールな眼を、今回ばかりは見開いている。
「………来た、と言うよりは無理やり引っ張り込まれた、が正しいと思うけどな。お前だろ、変な魔法陣出したやつ」
「は?え?」
美海はまだ状況の整理がついていないようだが、冷蔵庫の件であの模様が転移の魔法陣であると考えていた俺は、なんとなくではあるがいち早く状況を理解した。
「そうよ。私が召喚者の『剣姫パルメ』。パルメ・ザン・トライデントよ」
つまりこれはあれだ。異世界召喚もののなんかだ。
そしてこの手のゲームなんかでは…
「そうかい、なら俺は被召喚者ってわけだ。どうすれば良い?どうせなにか用があって呼んだんだろ?」
「話が早くて助かるわ。それに今回は二人も英雄を召喚出来たし」
パルメと名乗った彼女は剣を拾い上げ、眼前に構えながら口を開く。
「あそこにいる二人のドワーフを倒すのよっ」
「了解っ」
「え、了解って…何言って…って兄ぃっ!?」
言われるが早いか、俺は数メートル先に見える小さな体のドワーフ二人目掛けて駆けた。
そう、小さい頃から何度となくやって来たこの手のゲームなんかでは、『いきなりバトル』のチュートリアルが鉄板だ。
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