20章 闇への餞

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・ 一歩── また、一歩…… グレイは長い階段をゆっくりと上る。 グレイの足取りに合わせ、邸の壁の隅がパラパラと小さく崩れ始めていた── その気配にモーリスははっと後ろを振り返った。 赤い絨毯を敷き詰めた廊下。主人の部屋から歩いてきたその後ろを見ると、色鮮やかだった絨毯が擦りきれて古びたボロ生地に変わり果てている。 そして、元の色彩が分からぬ程に色は摩れていた。 もう千年余りの時を過ごしてきた── グレイの魔力で姿を保たれていた邸が少しずつ崩れていく。 亀裂が走りボロボロと埃を立てて朽ちる廊下の壁。モーリスはそれを見つめて静かに目を伏せた。 これが我が主人の望んだこと── それならば仕方ない。 だが──… モーリスは伏せた瞳を開き、窓から見える離れの高い塔を真っ直ぐに見上げる。 これが何一つ望まぬ上での成り行きならば…… モーリスは塔を見上げた目尻をふと緩めた。 「……どれ。老いぼれなりのお節介とやらを死ぬ気で働いてみますかな……もう屍の身ではございますが…」 巧くいくかはさだかではない。 しかしどれもこれも旦那様のため… しいては…… やはり、旦那様と共に幸薄き少女に幸せになって欲しいと願う我が身の為── モーリスは激しく揺れ動く塔の上を目指し、長い螺旋の石畳を踏み締めていた。
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