20章 闇への餞

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「グ…レイ……」 ルナは小さく声にした。 現れた闇の主、その姿をルナは力なく目に映す。 それはルナが始めて見た、吸血鬼の始祖── 真の闇の主の姿でもあった── 双方に広がる黒く大きな両翼の影が月を覆い隠す。 肩から剥き出した翼は何度も大きな煽りを繰り返し、その背後からは滲んだ月光が眩く反射している。 グレイはゆっくり降り立つと赤い双眸の瞳をルナに向けていた。 肌も露に乱れたルナの姿からは、二人が交わったことは一目でわかっていた。 そしてリドリーの唇の両端から滴る血。貪った証しにたっぷりと口元を鮮血で汚している。 グレイは冷たい笑みを浮かべ、リドリーを笑う。 「今まで幾度と慈悲を掛けて餌を狩る機会を与えてやったのに…」 グレイは口にしながらゆっくりとリドリーに近付く。 「まさかこういった形で俺に刃向かうとはな……」 「……っ…」 「最早、覚悟の有無は問わん…お前は一生蜥蜴の姿で冥界の地だを這うがいい──」 「もうグレイ様の力は必要ないっ…っ…ルナは僕のものになった…っ」 「………」 グレイはふっと笑った。
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