20章 闇への餞

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・ 「…リドリー…ルナの血に狂ったか───…ならば二人仲良く冥界で暮らせ」 「──……」 グレイの言葉にルナは力のなかった瞼を一瞬だけ見開いた。 裏切ったのだから怒りを買って当然だ。 でも心のどこかでは許して貰えるとそんな望みをもっていた。 遠い意識の中で聞こえてきたグレイの声に耳を疑いたい。 細めた目の前は滲んで何も見えない。 ただ、深く重く感情のない声だけがルナの頭に響く。 リドリーは徐々に肩で苦し気に呼吸する。 閉じた瞳から涙を流すルナを背にしたまま、グレイはそんなリドリーを見据えていた。 「苦しいだろう…お前には余る血だ──…俺が手を下さぬとも勝手に朽ちる」 「……っ…」 息を切らしながら姿勢を構えた姿は明らかに闇の主に背く行為だ。 グレイはどこまでも反抗的なリドリーを静かに見据え、浮かべていた笑みを消し去る。 「──…っ…ぐっ…」 リドリーは自分の躰に起き始めた異変に目を見開いて胸を抑えた。 グレイの傷付けた背中の肉が、ルナの血の力によって再生されていく── 「……っ…」 「お前に通う血よりもルナの血の方が強い──…元から下級のその肉体は傷が深ければ深いほど…お前の命を吸って傷を治す……」 「そ…んなっ…」 リドリーはその場に膝を折って絶望を浮かべた。 今までずっと力を蓄えてきた── 別に闇の主に逆らうことが目的ではなく、自らの力で自由に狩りをしたかっただけだ。 そのために多くの生き血が必要だった──
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