20章 闇への餞

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・ 「た、…助けっ…苦しっ」 「それがお前の覚悟だろう──…」 「…っ……うあああっ…」 グレイは冷たい瞳でリドリーを見下ろした。 「俺はお前にずっと与えてきた……」 「…ぐあっ……っ…」 「お前は俺に何をした…」 「……つ…っ…くあ」 「俺から何を奪ったっ…」 静かに問い掛けていたグレイの唇が急に震えた。 ルナの息づく気配をもう感じない── 血に狂ったリドリーは命を奪うほどにルナから血を吸い尽くした。 焼け焦げた臭いが辺りに立ち込める。 背中から溶けた肉はリドリーの白い骨を剥き出しにし、溶け落ちて蒸発していく。 頭皮はズルリと頭蓋骨から皮ごとずる剥けて、剥げ落ちた毛髪はもう美しい銀髪とは似ても似つかぬ枯れた草のようだった。 皮も肉も臓器も── すべてが溶けて浄化されていく。 ピクピクと痙攣を繰り返すリドリーの躰はもう人の姿さえしていなかった。 煙の燻った後だけが立ち上る。 姿をすっかり無くしたそこにはリドリーの身に付けていた衣服だけが脱け殻のように残されている。 その下で何かがゴソゴソと蠢いていた。 グレイは衣服を脚で退かせた。 その下から小さなトカゲが頭を持ち上げてグレイを見上げる。 「所詮あれは仮の姿だ──…お前はその姿からもう一度やり直せ…もう餌は与えてやらん」 赤かったグレイの双瞼の瞳はいつの間にか元に戻っている。 小さなトカゲはグレイを見上げ何度か首を傾げると、いそいそと隙間から逃げていった──
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