20章 闇への餞

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・ 夜空に現れた二人の姿を見つけ、魔界の森の上空を飛び交う妖魔がルナの亡骸に群がってくる── グレイはそれらを大きな翼の一煽りで制して怒鳴った。 「塵になりたくなければ今すぐ去れっ!」 ルナを大事に抱き抱え、グレイはその小柄な躰を翼で包み込む。 グレイはモーリスの待つ邸にルナを連れて戻った。 「柩を用意しろ──」 「かしこまりました」 息絶えたルナを胸に抱き抱え玄関に立つ。そんな主人を見てモーリスは一つも動揺しなかった。 こうなることは目に見えてわかっていたからだ。 闇の主の怒りを買ったのだ。まだ姿形があるだけでも身を裂かれるよりはましだと。 モーリスは背を返して邸の地下に足を向ける。グレイはそれを見届けて自分の部屋に戻った。 濃いグレーのシーツを敷かれたベッドにルナを静かに横たわらせる。 花嫁にすることが叶わなかった── 初めて何もかもを翻弄してくれた少女。 あと少し… 時が満ちてこの少女が大人への階段を昇るまで待つつもりでいたのに… それが仇となってしまったのか── グレイは寝かせたルナに寄り添うように隣に身を寄せルナの頬を撫でる。 そして額に口付けて目を閉じたままのルナを見つめた。 「柩に入れて人間の世界に戻せばお前の亡骸は瞬く間に灰になる…」 グレイはゆっくり語りかける。 「戻してやる…」 囁きかける声、それは今までで一番優しい声音。 「…どうせ最後だ──…っ…お前を人として人間の世界に戻してやる」 そんなグレイの声は微かに震えていた。
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