20章 闇への餞

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・ グレイはルナの唇に口付けるとリドリーが付けたままの吸血の痕に舌を這わせた。 流れた血を拭い、何度も触れるグレイの舌がリドリーの咬み傷を塞いでいく── 綺麗に元に戻った首筋を見つめると、グレイはまたルナを抱きしめた。 ベッドの頭に背を預け、躰を起こしてルナを座らせる。 グレイは自分の肩にルナの頭を寄り掛からせて指先を鳴らした。 「ルナ、見てみろ……あれがお前を花嫁にする為の祭壇だ…」 部屋に広がる空間はいつの間にか夜空に包まれた景色に変わっていた。 グレイが指を差す先に長い階段が見えている。 グレイは目を閉じたままのルナを覗き込みそのこめかみに唇を押し当てた。 ルナの着ていた夜会のドレスがいつの間にか淡いピンクのドレスに変わっている。 モーリスから譲り受けた二枚のドレスで仕立てた花嫁衣装。 グレイはルナの亡骸にそれを着せると笑っていた。 もう少し大人に── それからでも遅くないと思った。 ルナの心が自分に向いていた。 焦らずともこのまま時間を掛けて待ってもいいとさえ思った。 強く抱き締めても苦しいとも何一つ反応を返して来ない── からかって触れる度にあんなに必死で強がって見せた少女はもうここにはいない。 いったいどこで歯車が狂ったのだろうか──
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