20章 闇への餞

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・ 贄だからと血を吸ってばかりではルナの躰が持たなくなる。 そう思ったからこそ他で餌を貪った── 成熟していない人間の幼い躰には魔物の吸血行為は適さない。 だからこそ、ひと月に必ず訪れる月経の日を唯一ルナから血を捧げられる日にと決めたのに。 「ルナ──…もうお前が欲しいものは何もないのか…」 グレイは肩に寄り掛かるルナの小さな後頭部をそっと撫でる。 そして細い指先を手に取り見つめると、グレイは小さな指輪を取り出した。 「ふ……まだ弛いな」 もう少し成長したルナの指にはめる筈だった。 グレイはルナにはめたその指輪を数回親指で撫でると指輪はきゅっと縮み、今のルナにぴったりのサイズになっていた。 グレイは指輪をはめたルナの手を取りその甲に口付ける。 目を伏せて柔らかく押し付けた唇。 花嫁へ捧げるその仕草は婚礼の儀式そのものだった。 「グレイ様」 「───……」 扉を叩いたモーリスの声にグレイは顔を上げた。 「柩の用意が整いました。早くルナ様を──」 「もう少し待て…」 「………」 ルナの亡骸を抱き締めて遠くを見るグレイをモーリスは扉を開いたまま見つめた。
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