20章 闇への餞

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「ルナ…大丈夫?」 「───…」 リドリーは肩で息を切らすルナを心配そうに見つめ問い掛けた。 ルナはきつく閉じていた目をはっと見開き、酷い痛みを受けていた額に思わず手を当てる。 じわりと滲んだ温い汗だけが手のひらを濡らし、ルナはその手を見つめた。 血もなにも付着してはいない。 あんなに痛かった筈なのに── リドリーは何が起きたのかもわからず戸惑いを浮かべるルナの頬を撫で、柔らかく目を細めた。 「自由になったんだよ…」 「──…自由に…」 ぽつり呟くルナにリドリーは頷いてみせる。 「グレイ様から自由になったんだ……」 「………」 「もう君はグレイ様のモノじゃない──」 「───…」 「僕のだ──」 「……っ…」 重なるリドリーの影が視界を塞ぎ、ルナの唇を甘ったるい吐息が撫でる。 リドリーのキスを受けながらルナの瞳は見開いたままだった…… “君は自由になったんだ” 「───…」 “もうグレイ様のモノじゃない” 「………」 何故だろうか 見えない捕縛を解かれ、喜んでいい筈なのに、ルナの瞳は次第に涙に溺れていく── あんなに嫌だった所有物としての立場だったのに、今はその接点さえも消えてしまった。 もう… あの人のフィアンセでもなんでもないんだ… ルナの中で小さな想いが壊れていく──
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