20章 闇への餞

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・ モーリスは改めてグレイの部屋を見渡す。 邸の離れの回廊の塔に準備した祭壇がそのまま空間に映し出されていた。 モーリスはその景色を見つめたままの主人の表情に小さくため息を漏らした。 闇の主に似つかわしくもない覇気のない表情── 気を緩めれば直ぐにでも他の魔が忍び寄る。 「グレイ様、何とぞ御早めにルナ様を送ってくださいまし」 「………わかっている」 グレイは応えながら、ルナを抱き締める手に無意識に力を込めていた。 人間である屍をいつまでも傍に置いておけば何が棲み憑くかわからない。 死んでしまった以上早くルナを灰に戻してやらなければ、ルナの躰を良からぬ魔物に奪われてしまう。 モーリスはグレイの部屋を後にすると窓から見える邸の外に目を向けた。 暗闇では無数の禍々しい眼が邸の様子を窺っている。 力が絶大であるからこそ、それが揺るげば規律が乱れる── 邸の周りを囲む魔気の気配からしてそう強い魔物ではない。だが低級な魔物が集まれば、それを嗅ぎ付けて力のある魔物が寄ってくる。 低級でありながら魔物が闇の中で邸を見つけたということは、それはグレイの結界の力が弱まっている証拠でもあった。
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