20章 闇への餞

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「ヴコ、そこに居りますかな」 「………」 モーリスに呼ばれ、ヴコは無言で姿を現した。 「今夜は静かにグレイ様に御過ごし頂きたい。邸の外の掃除をお願いできますかな」 「………」 ヴコは黙って頷いた。 大きな背を向けたヴコは外から邸の屋根に掛け上がり闇に向かって遠吠えを奏でる。 その声を聞き付けてヴコの手下の魔物が狩りを開始した。 グレイは遠くでその遠吠えを耳にする。 抱き締めたままのルナは生きている時と何も変わりはない。 ただ目を開けぬだけ。 ただ…口を開かぬだけ。 ただ… 心が二度と動かぬだけ…… 見た目は何も変わらない── 変わらぬこの少女を何故、柩に入れなければならない? 何故、人間の世界に戻さねばならない? 何故──…灰に返す必要がある…… グレイは自分が作り出した婚礼の祭壇に続く長い階段を見上げる── そしてルナを抱き上げると無意識にその階段に脚を掛けていた。
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