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「──…温いなこれも……何故、適温で出せない?」
「…っ…申し訳ございませんっ直ぐに淹れ直しを」
「もうよい…これで何度目だ? いい加減、渇きで喉の粘膜が貼り付いてしまうわ──…もう下がれ」
「もっ…申し訳ございませんっ…」
鬱陶しげに美しい手の先で追い払われ、その者は頭を何度も提げながら後ろに引き下がる。隣に付いていた従者は気の毒そうにその背中を見送った。
怯えていたその者を、今度は低い声が手招きしながら呼び止める。
「おい、…」
呼ばれて今度はそこへ慌てて足を向けた。
少し離れた後ろの席を茶褐色の肌をした親指で指しながら声の低さに圧を掛けて主は訊ねる。
「何故、奴があそこに居る?」
「……それが…っ…」
「何故だ」
戸惑いながら口を開いたその者は手にしていたトレイを抱き締めた。
「わ、私共が搭乗する前にはもうあそこに座って居られまして……っ…あのっ…私の口からは何故乗って居るか等はとてもお聞きっ…」
焦り口調で早口になる。そう説明した使用人にアサドは深く溜め息を吐いていた。
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