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「やっぱり、現実だよな」
自室の惨状を、小鳥のさえずりにいざなわれて目覚めた涼は目の当たりにする。
強盗にでも襲われたかのように荒れた室内は、直視に耐えない。
「おはようございます。よく休めましたか?」
「……はは、こっちも現実だ」
いつの間にか背後に立っていたエリミラは、数時間前の夜と同じ姿だ。
否、その鎧や顔には僅かな血液が付着していた。
「失礼、お休みの間に、付近の悪魔を退治しておりました」
昨夜の戦い振りから分かる通り、彼女の実力はあの程度の悪魔など赤子も同然に扱えるほどに高い。
涼が休んでいる間の戦いは、戦いというよりは一方的な殺戮に近かったものであることは容易に想像がつく。
「肩慣らしにもならない相手でしたが、戦う術を持たぬ者にとっては大きすぎる脅威です。退治ではなく、根絶することを考えないといけません」
「あ、そ、そうなのか。そりゃあ大変だけど……イマイチ実感が湧かないんだよなぁ……」
今の涼にとっては、悪魔がどうのこうのよりも散らかりすぎた部屋の片付けの方が優先すべき事項だ。
「……あれ?昨日のゾンビ、どっかいったな」
幾分遅かったが、涼はようやく異変に気が付いた。
昨夜はあったはずの死体が、跡形もなく消えていた。
「悪魔の人形となったが最後、人としての痕跡はなくなります。あなたがお休みになられた時点で、あの死体は腐り始めていました」
襲われたとはいえ、かつては人間であったもの。
涼は完全に消えてしまったあの女に、強い哀れみを感じていた。
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