刃は貴方を付け狙う

6/10
前へ
/19ページ
次へ
最初の目的地は、涼が発見した現場だ。 無論、パニックを起こした涼ではなく、全く別の二人目の目撃者が通報していたわけだが。 案の定、警察官だらけで調査など出来るはずもない。 「こりゃ無理だな。帰るか?次に行くか?」 「無理?そんなことはありません。むしろ、これは好都合です」 「……なんですって?」 エリミラは現場に近付いていく。 それに気付いた警察官が彼女を止めようとする。 「ここは立ち入り禁止です。あまり近付かないでください」 「何を言っている?私は警察官だ」 「あまり変なことを……」 エリミラは、警察官の目をじっと見つめる。 ただただ、彼の眼を見つめる。 「失礼致しました。どうぞ、中にお入りください」 警察官は、彼女を規制線の中へと入れてしまった。 慌てて止めようとする者が何人かいたが、いずれもエリミラに見つめられると、その態度を改めた。 「これまでの調査の結果は?」 「被害者は小島英明(こじまひであき)、職業はフリーターです。容疑者については、まだなんとも」 エリミラは尋ねはしたものの、それほど真剣には聞いていない。 被害者の個人情報など、彼女の成そうとしていることにはそれほど関係がないし、加害者は既に斬った。 加害者が加害者となった経緯は知りたいところだが、彼らの捜査でそれが判明することはないだろう、少なくともこの場では。 「遺体は?」 「こちらです。酷いことになっていますが……」 ブルーシートに包まれた被害者の遺体は、首が切断されているだけではなかった。 後頭部は抉られたようになっており、両肩も骨が見えるまで食い千切られている。 首も切断されたというよりは、噛み千切り続けた結果そうなった、という印象だ。 「損壊が激しすぎて、悪魔も依代に出来なかったようですね」 「どうかされましたか?」 「何でもありません。……貴方の仇は討ちました。安らかにお眠りなさい」 訝しげな表情を浮かべる警察官を無視し、エリミラは遺体に祈りを捧げ、その場を立ち去った。 悪魔がそこにいたというのは感じ取れたが、具体的にどこからやってきて、どのように行動したかまでを辿るには至らなかった。 「お前、スゲーんだな」 「吸血鬼の基本技能です。さぁ、次です」 この場での調査で得られたものは多くはない。 次の場所へと二人は急いだ。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加